INTERVIEW

INTERVIEW with REMI ANRI DOI ハンドボールを始めてくれた子たちが大きくなったとき「やっていてよかった」と思える世界であってほしい

その言葉には、本場フランスのハンドボール文化を経験したからこその説得力が宿る。土井レミイ杏利は日本のトップ選手であり、同時にハンドボールの普及に全力を尽くす“伝道師”だ。「誰よりもハンドボールが好き」と自認する彼は、Tik Tokのような新しいメディアを使いこなしながら、この競技と少年少女の距離を近づけてきた。“レミたん”が続けてきた活動と新リーグの動きは、同じ方向に進む力強い流れとなるだろう。

――2024年に、ハンドボールの『次世代型プロリーグ』が発足します。土井選手は新リーグの可能性をどうご覧になっていますか?

僕は元々、フランスリーグで選手をやっていました。向こうのスタイルや人気を肌で感じて、それが成功例として僕の中にあります。それを日本で「できない」とは思いませんし、競技自体の魅了も大きいはずです。これからの未来について言えばポテンシャル、希望しかないですね。

――土井選手は日本体育大を卒業後に2013年から6シーズン、フランスのプロリーグでプレーした経験をお持ちです。

フランスでは街の人が当たり前のように地元のクラブチームを応援してくれます。プレー経験がなくても、「週末は映画でなく、ハンドボールの試合を応援に行く」という文化で、生活の中にハンドボールがある。それはポジティブなカルチャーショックでした。チームごとにアリーナの規模、人気は違いますけど、平均で5000人は入っていましたね。
盛り上がりはすごいです。日本ではBリーグが盛り上がっていますけど、そんなイメージでした。ハイレベルの試合を見せるだけでなく、エンターテイメントとして提供することで、「またあの場に行きたいな」と感じさせる仕掛けがたくさんありました。そういう部分も含めて、日本も成長していけたらなと思います。

――新リーグの設立がフランス、ドイツのような“夢のリーグ”に向けたスタートになる期待は持てていますか?

もちろんです。いきなりプロリーグ化しますといっても、全てが解決するものではないですし、時間がかかることはあります。でも何かきっかけがなければ、変化は生まれません。新しく何かを始めるリスクはあるけれど、リスクを背負えない人が何かを変えることはできません。今は葦原(一正)代表理事が先頭に立って、ハンドボール界全体でそのリスクを背負っていこうとなっています。不安より期待のほうが明らかに大きいです。
あと葦原さんは「今までに無いものを作るつもりでいる」と仰っているので、そこにものすごく期待しています。僕も新しいものは大好きなので。スポーツ界全体にとって「新しい」といえる次世代型プロリーグの構想が、おもしろい未来を産むのかなと期待しています。

――「次世代型プロリーグがこうなってほしい」という具体的な希望、要望はありますか?

ホーム&アウェイはヨーロッパの基本ですし、地元の人たちが応援に来るホームアリーナはどのチームも持っています。観戦が地域の人の習慣になったら最高です。
海外には8部リーグくらいまであるんです。でも日本はトップリーグしかなくて、男子でまだ11チームしかありません。だから第三地域の人たちは試合観戦がなかなか難しい。ホーム&アウェイはしっかりやりつつ、第三地域でやる集中開催も続けてほしいなと願っています。そうしたらふだん見に来られない人も観戦しやすくなるはずです。

――新しいリーグを成功させるために、何が必要だと思いますか?

「これ」という正解を一つ選ぶのは難しいですが、東京オリンピックの女子バスケのように、代表チームが勝つ、いい試合をするという結果を出すことはもちろん大事です。
あとはそれぞれが自分の役割を認識して、それを果たすことですね。選手たちは選手たちで発信できるし、チームも結果だけを求めるのでなく地域の人たちに問いかけて、地域全体で盛り上がるような仕掛けをする。そういった役割を全員で、まとまった共通認識を持ってやるとことが一番大事なのかもしれません。

――土井選手は“レミたん”としてTik Tok では260万人を超えるフォロワーを持つ動画配信のクリエイターです。いわばハンドボールの“伝道師”として活動をされています。どういう狙いをお持ちですか?

単純に「もっとハンドボールが日本で普及してほしい」という思いだけです。みんながハンドボールをよく知っていて、プレーも経験して、それで「このスポーツは面白くないな」と判断してマイナーならいいんですよ。でも何も知らないで、食わず嫌いで、マイナーだと判断されるのは納得いかないんです。
ハンドボールを普及したいなら、ハンドボール界にとどまっていてもダメだと思うんです。僕がTikTokとかで、なぜハンドボールを出さないか?それはハンドボールに興味のある人、ハンドボーラーしか見てくれないからです。その先にいる人たちをまず巻き込んで、その後に「ハンドボールをずっとやっている」と言えば興味を持って、こっちに来てくれる。そういった流れをまず作ろうと考えてやっています。

――ハンドボールの認知度はまだまだ低いように思いますが、どれくらいの段階だと感じていますか?

まだ二合目くらいじゃないですか。僕がきっかけになればいいとはもちろん思うんですけど、一人より大勢の力のほうが絶対に強い。僕は小さな波を作る最初のきっかけになれればよくて、それに乗ってくれる人が増えてくればその波は高くなるでしょう。
今はこうやってJHLの体制が変わって、葦原さんをはじめいろいろな人が関わるようになりました。自分がプレーしているジークスター東京もそうですし、新しい流れが来ている。そこに乗ってみんなで変えていくというのが、すごく大事になります。

――土井選手が「外の人たちにアプローチをしてきた手応え」はいかがですか?

思い描いていたより、ずっといいです。当初は少しでもハンドボールを知ってくれて、ハンドボールを知らなかった人も会場に足を運んでくれたらいいな……というくらいでした。でも実は僕の影響で競技をはじめてくれた子たちがすごく多いんです。中学生になったばかりの子がハンドボール部に入ったり、いままでスポーツをやっていなかった子がハンドボールクラブに入ってくれたりしています。直接子どもたちからも連絡をもらいますし、指導者の方から「今年はレミたんの影響で20人も新入部員が増えました」なんてお礼のメッセージもいただきます。そういったところまで影響を与えられるとは想像していなかったので、「やっていてよかったな」と報われた思いです。

――新リーグの発足は2024年だからまだ先ですが、その場に立つ、盛り上げに関わるイメージはありますか?

盛り上げたいというよりは、まず「整えたい」が大きいですね。僕の影響でハンドボールを始めてくれた子たちが大きくなったとき「やっていてよかった」と思える世界であってほしいんです。
2024年じゃなくて10年後かもしれないですけど、「これだけお金を稼げるスポーツだし、ハンドボールをやっていてよかったな」と感じられるような世界作りまでやってはじめて責任を果たしたと言える。申し訳ないですけど、現段階ではそれを十分に提供できる環境ではありません。いま始めた子が大きくなったときに向けた環境作りが自分の使命です。

――日本には野球、サッカーが先行のプロリーグとしてあって、バスケットボールも2016年にBリーグが開幕しています。日本のハンドボールでも、同じような盛り上がりを実現できますか?

もちろんできます!ヨーロッパで成功例がありますから。欲を言えばそれよりすごいリーグになれば嬉しいですね。NBA(ナショナル・バスケットボール・アソシエーション/北米で活動するプロバスケの最高峰)はヨーロッパのハンドボールより全然すごいですし、それくらいまでいけたら最高です。

――変な質問ですが、なぜ土井選手はそこまで一生懸命ハンドボールの魅力を伝えようとしているんですか?

単純に僕は誰よりもハンドボールが好きなんだと思います。好きなことって人に紹介したくなるじゃないですか?それを頑張るのはまったく大変じゃなくて、やっていて楽しいんです。一人ひとり興味を持ってくれた経緯を知ることもすごく嬉しいですし、そこに自分が関われていたらなお嬉しいですね。

――ハンドボール愛は、フランスの経験で強まったんですか?

逆ですね。フランスに行ってプロの環境を体験しましたけど、あちらではハンドボールだけに集中していればいいんです。人気のあるスポーツだから、別に選手が宣伝なんてしなくても、みんなハンドボールを見に来ます。
でも日本に帰ってきて、ヨーロッパに比べたら練習や試合の環境がよくないし、お客さんもあまりいなくて会場がガラガラ……となったときに、スイッチが入ったんです。「誰もやらないんだったら、自分でこの環境を変えてみよう」と心の中で決めました。
その決断をしてからいろいろな人と出会って、協力していただいています。そして、その過程で多くを学びました。ハンドボールがマイナーじゃなかったら、ただハンドボールをやっているだけの人だったと思うんです。でもマイナーだったからこそ僕はそこで状況を変えようと動いて、さまざまな人と関わって、多くのことを学べた。裏方として貢献している方がたくさんいるんだな……ということにも気づきました。人間として、より豊かになれました。
つまりこの環境だったからこそ、よりハンドボールを好きになれた。フランスを経験して日本に帰ってくる順番だったからこそ、それを変えたいと思えたんです。

――今回の新リーグ発足も、土井選手の活動と同じ方向を目指す流れです。

そうですね。リーグが変わろうとしているタイミングで、僕もいままで頑張ってきた流れと一緒に同じ方向を向いていけそうです。それは運が良かったし、チャンスだと思っています。

――このインタビューを読んでくれたスポーツファンに、メッセージをお願いします。

一度見ていただけたら、ハンドボールはきっとおもしろいと感じてもらえる競技です。皆さんがお忙しいところ、こんなお願いをするのは本当に申し訳ないんですけど……(笑)機会があったら、ぜひ一度、直接その目でハンドボールの試合を観に来ていただけたらうれしいです。いつの日か会場で皆様にお会いできる事を楽しみにしております!
(インタビュー・構成:大島和人/インタビュー撮影:栃久保誠)


土井レミイ杏利(どい・れみぃあんり)
ジークスター東京所属。1989年9月28日生まれ、千葉県出身。180cm・80kg。ポジションはレフトウイング(LW)。フランス人の父と日本人の母の間に生まれ、小学3年生からハンドボールを始める。日本体育大学を卒業後、語学留学を目的に渡仏。練習参加からプロ契約を果たし、6シーズンに渡ってフランスで活躍した。大崎電気を経て、2020-2021シーズンからジークスター東京でプレーしている。東京オリンピックでは男子日本代表『彗星ジャパン』の主将を努めた。ショートムービーアプリ『TikTok』では260万人を超えるフォロワーを持つ。