INTERVIEW

INTERVIEW INTERVIEW

ハンドボール界が、大変革に踏み出す。日本ハンドボールリーグは地域に根ざした、ファンファーストのプロリーグに生まれ変わろうとしている。
今回の“次世代型プロリーグ構想”では野球やサッカー、バスケットボールと大きく異なる仕組みが取り入れられた。「シングルエンティティ」と呼ばれる手法で、個々のチームがチケット販売やスポンサー営業、放映権といった事業経営を担うのではなく、リーグが一括して全チームの事業経営を担うことになる。企業の負担は抑えられ、選手には多様な選択肢が用意される。一方でリーグは多く役割、リスクを背負うことになる。
素晴らしい挑戦ではあるが、未知数の部分は否めない。また熱心なスポーツファンの皆さんでも、その新しさに戸惑うかもしれない。
一方でハンドボール界の実情や時代の変化に対応した制度設計がなされており、実は狙いもシンプルだ。今回は日本ハンドボールリーグ(JHL)の葦原一正代表理事がそんな新リーグの狙い、目指す方向を語っている。

――新リーグ構想がいよいよ発表されます。まず狙いを説明していただけますか?

2021年4月に日本ハンドボールリーグの代表理事に就任して、ここまでは非常に順調に来ています。一方で私は強い問題意識を持っています。例えば各チームは平均で年間2億円の予算を使っていて、収入はほとんどありません。この状況が10年、20年と続くかといったら、続かない可能性が高いでしょう。事業としての持続継続性を維持するため、しっかり稼ぐ体質にするために、新リーグの構想を練ってきました。
男女全21チームとのチームミーティングは、各9回行いました。選手アンケートは245名、ファンアンケートは905名から回答がありました。ハンドボール界の強みと課題を分析し、理事会の議論を経て、今回の発表に至りました。

――今回の構想では“次世代型プロリーグ”の発想を打ち出しています。

稼ぐためにどうするか話をすると、プロという言葉が先行しますね。一般的にはプロ野球選手のように、その競技だけから報酬を得るのがプロ契約のイメージだと思います。この半年間は特に「プロとはなんぞや」という部分を議論していました。
「プロ化をすれば本当にうまくいくのか」という問題があります。世界を探せば競技を問わずプロリーグの失敗例は沢山あります。
そのような中で私が言いたいのは「もっと大事なプロの意味」についてです。“三つのプロ”と言っていますが、まず経営のプロ化です。選手のプロ化も、一定レベルは必要でしょう。あともう1つ大切なのがマインド、風土のプロ化です。

――JHLの現状を見ると、男女とも実業団チームが中心です。

大前提として実業団はものすごくいいモデルだと思っています。チーム側は“スポーツ選手としての人件費”が無いから少ないコストで運営できて、かつ社内の一体感を醸成できます。選手はセカンドキャリアに対応してもらえて、環境面も寮や練習環境が完備している。そうやってお互いの利害が一致していました。
ただ実業団はどうしても会社の事情で物事が動いてしまう傾向があります。例えば一例としてコロナ対応でも「会社の出張規制があるから、選手だけを特例で試合させたくない」という意思表示があったりもしました。議論して試合はやることになりましたが、沢山のファンが待っている、メディアやスポンサーさんが協力してくださっている中で、自己都合だけで試合に行かないことが本当にいいのかということをチームの皆さんと議論させて頂きました。試合会場もコート近くの良い席を役員席にして、一般のファンの方々は遠くにある場合もあります。
実業団が問題なのではなくて“実業団しかない”ことが問題です。ファンから見ると、同じトップリーグなのに他競技のように自分たちを見てくれていないという感覚があるでしょう。ジークスター東京を始め、いくつかのクラブチームが入っていますが、どちらがいい悪いではありません。思想が違うなら分ければいい話です。
プロ化有りきの議論ではなく、誰の何のためにハンドボールをやっているのかというシンプルな問いを最初の3~4カ月間くらい丁寧に続けてきたつもりです。

――ただし“経営のプロ化”を目指しつつ、チームに対してプロ化、独立法人化は要求していません。

チームの独立法人化は確かに大きな意味を持ちます。先輩格のJリーグも、Bリーグも、そうやってやってきました。チームが法人化して経営のプロが来て回す体制を目指すやり方は、ハンドボールでもアリだと私は当初考えていました。
ただそうしなかった理由は2つあります。一つはチーム側が運営法人化に対してイメージを持てていなかった。リーグがレギュラーシーズンの主管権を持つやり方を提示したところ、ほとんどのチームはそれがいいという意見でした。
もう一つ、サッカーやバスケと全く同じモデルをやっても、日本スポーツとしての発展はありませんよね?新しい、違うモデルに挑戦したいという狙いもありました。

――新リーグはリーグが試合の主管権、ビジネス機能を担うモデルを取り入れようとしています。例えばアメリカのMLS(メジャーリーグサッカー)と同じ仕組みですが、メリットはどのような部分ですか?

例えば試合開始時間を考えてみましょう。リーグ側は放送重視で、各試合の時間をずらそうと考えます。一方でJリーグ型、Bリーグ型だとチーム側はチケットを売りやすい時間にやろうとして、試合時間が被りがちです。デジタルの取り組みも、スポンサー活動も、リーグ権益とクラブ権益がしばしば衝突します。Jリーグ型、Bリーグ型だとリーグ/チーム間でそういった細かい運営に関わる交渉事がものすごく一杯あって、調整コストが大きいんです。一括でやったほうが、今のハンドボール界の進めるべきアクションをよりスピーディーに進められるかなと考えました。
あと良くも悪くも実業団チームは今まで事業をやってきていません。だからリーグが一括してやりますと言っても、チームから何も奪わずに済みます。既にチームごとの事業化が進んでいる他のリーグだったら、難しかったですね。

――プロ野球はもちろん、Jリーグ、Bリーグとかなり違う制度設計です。

一般のビジネスモデルで言えば、フランチャイズモデルか?直営店モデルか?という点に違いがありますね。例えばセブンイレブンのビジネスモデルはJリーグ型、Bリーグ型です。本部はブランドや基本的なプラットフォームを提供しますが、リスクは加盟店が負うわけです。全国各地へ店を速やかに展開したいなら、フランチャイズモデルですね。但し、加盟店が独立している分、全体マネジメントが大変難しい。
一方、我々が目指しているのは直営店モデルです。急速な拡大は困難ですが、全体マネジメントはしやすい。

――急拡大より、まず質を追うイメージですか?

Jリーグは全国にあまねくチームを作ることが大事という発想でスタートしていますね。BリーグもJリーグのコピー&ペーストをやったので同じ発想です。でもチームが少ないからこそ、個々の価値を高められる部分もあるはずです。今のままハンドボール界を大きくしても、価値が薄められてしまうだけでしょう。それにチームが多すぎると思想統一は難しくなります。
結果的に数字がついてくるならいいんです。でも数字先行だと大事なものを失っても、とにかく数字を達成しようという動きになってしまいがちです。量より質を求めていく世界にしていきたい。

――選手のプロ化についてはどうお考えですか?

そこが一番ホットなテーマですね。正直チームからは色々な意見が出ています。「自分たちの手元からいなくなってしまう」という感覚が大きいのかもしれません。自分たちが何十年も育てたものを急に取られてしまう感覚です。
それに急に「ビジネスだ」なんて言い出したら、自分たちはハンドボール界を支えるため、盛り上げるためにやっていたんだ……と思うでしょう。そのような喪失感は根底にあると思います。
加えてお金の問題もあります。今までは選手の給料は会社で働いていた分に対して払われて、ハンドボール部の予算に含まれなかった。それがチームの予算に反映されれば、見かけ上は会社の支出が増えますね。

――葦原さんはどう説得したのですか?

「専業プロか、兼業プロかは、どちらでもいいんですよ」と強調しました。リーグがプロの統一契約書を出してもらえればいい仕組みなので、会社で働いているか、働いていないかは問題にしません。プロ野球のような専業プロだけが、プロではありません。働きつつ、別途プロ契約を結んでも立派なプロなので、うまく運用してくださいとお話しさせて頂きました。
コート上に立つのは7名で、JHLの選手登録数は16名から22名。そのうち最低11人のプロを出してくださいという話をしています。

――チームの側からすると、配分金による収支の改善が大きなメリットですね。

それが一番の目標です。3シーズン目のチーム平均売上目標は1.5億円に置いています。管理費がかかるから1.5億を丸々お返しできるか分かりませんが、大半を配分金としてチームに還元できればと思っています。入りと出が整っている状態を作らずして、次のステージには行かないと思っています。なのでそこの数字には徹底的にこだわります。

――選手目線で見ると、どうですか?

選手の立場からすると、プロ化の要望は非常に強いです。その意味は“ハンドボールの競技力に対する正当な評価を求めたい”ということだと理解しています。資本主義社会ですから、評価はお金です。名誉だけでやったら、むしろ不自然になりますね。
専業選手もいるけれど、兼業選手もいる。もちろんプロを選択しない選手もコートに立ちます。兼業選手はプロとして契約を結びますが、会社との雇用形態は自由です。ベテランの中にはアマチュアでやりたい選手もいるだろうから、それも当然認めます。
兼業選手の雇用形態については業務委託、パートだけでなく「ハンドボールを副業としてやる正社員」もあり得ます。兼業や副業の規定がない会社は少し難航するかもしれませんが、そこはチームにお任せします。
ポイントはダイバーシティ(多様性)だと思っています。今は基本的にアマチュアとして、正社員しか選べません。選手も様々なキャリアを選べるようにしたほうがいいですよね。
それに“統一契約書”はプロでない選手にも関わる問題です。今は統一契約書がないから、誰がどのような契約をしているかが、リーグから見えません。肖像権がどこに帰属しているかも、統一契約書がない限りは管理できない。それをきっちりやります。

――例えばグッズ販売一つとっても、統一契約書の締結は大前提ですね。

チームと選手が契約を結んでいる例もありますが、一部では契約を結んでいない選手もあるようです。そしてリーグと選手には何の契約関係もありません。厳密にいうと肖像権がどこにあるのか分からないから、ルールも作れません。
グッズはもちろんですし、リーグスポンサーさんへの「この選手を使っていいですよ」という売り込みも、厳密に言うと今はできません。収益化、ファンサービスもそうだし、YouTubeやSNSを介した発信にも様々な支障が出ます。権利がどこに帰属するかが明確になるからこそ、次のルールをきっちり作れます。それが整備されていないから、新しいルールを作れない。それが今までの流れです。

――JHLは選手の大半が正社員ですが、先日のアンケートを見ると「引退後もその会社で働きたい」と考える選手は少数派でした。

だからデュアルキャリアを想定して動くべきだと思います。試合は週末中心ですし、両立が可能ですね。社会的な変化を考えると、一人が様々な仕事を持つことも自然な流れです。

――単刀直入に“プロ化”を選択した理由は何ですか?

確かに「なぜプロ化にこだわったのか?」とよく言われます。それに対して私は3つの理由を答えています。
1つは世間の注目が「プロ化したか/プロ化しないか」しかないという現実です。プロと言わないとメディアが食いついてこないし、新しいファンも増えない。スポンサーさんにも「プロなら話を聞くよ」という企業がいっぱいあります。だからプロと言ったほうが圧倒的にインパクトが大きく徳だからです。

2つ目は人材を流動化させていきたいという発想です。プロ化をしないと移籍が増えないし、戦力均等も実現できません。中期計画では戦力均衡モデルの導入を検討していきたいと思っています。

――企業スポーツは選手の移籍がほとんどありません。「有望な新人が強豪に入ってなかなか試合に出られない」というミスマッチもよく起こります。

人材流動化のメリットは大きいという考えです。そして3つ目のポイントが大きいですね。私は“命綱のない世界が一番強い”と考えているんです。失敗しても成功しても変わりのない世界って、誰も頑張らないんですよ。
世界と本気で戦おうとするなら相手は1年1年、勝負を掛けて戦っています。少なくともトップ選手は腹をくくって、アウトプットを出さなければ切られる環境に追い込まれないとダメです。
できる人は高い評価を得るけれど、ダメな人はバッサリ切られる――。それがプロの現実です。Bリーグみたいな楽しい世界になってほしいと選手の皆さんは言うけれど、プロはそれと同時に厳しい世界です。自分のような立場の人間も同じです。

――今後のスケジュールはどうお考えですか?

最終的にチームが入会希望を出すかどうかは2022年8月末までに決めてもらいます。22年夏に入会申込書を受け付けて、入会審査を9月にして、10月に結果を発表します。アリーナの選定、財務基盤の確認、(自治体の)支援書提出というプロセスを今後進めます。新しい設計で新リーグが始まるのは、2024年を想定しています。
最終的に何チームが賛同するかは、まだ分かりません。もちろん全チームに乗ってほしいけれど、現実的には厳しいところもあると思います。でも審査基準を低く置いてしまうと、未来につながらない。新リーグを立ち上げるからこそ、高い基準を置くからこそ、チームや自治体が頑張るメカニズムもあります。行政の支援文書もこのようなタイミングでないとなかなか難しいですね。

――参入審査はどのような基準で行いますか?

要件を8つ作って進めていきます。(1)理念の賛同、(2)チーム名、(3)アリーナ、(4)財務、(5)支援書、(6)ユースチーム、(7)選手契約、(8)事業です。チームの強い、弱いは考慮しません。まずアリーナの収容人員は1500名を基準に考えています。選手契約の要件は、プロ契約11名が大きいところですね。ユースチームはU-12を義務化にします。ハンドボールは小学校からやる子が少なくて、中高からの転向が多いんです。なので裾野世代からやっていこうと話をしています。

――事業要件のポイントはなんですか?

一番大きいのは商標です。これを取れないとチーム名が変わりますからね……とお伝えしています。チームの名称はもちろんですがロゴ、マスコットも含めてです。

――見落とされがちなポイントですが、商標登録はプロスポーツの基本ですね。

なので、権利化がしっかりできないとチーム名の変更がいくつか出てくる可能性もあります。

――企業名をチーム名に入れる、入れないの判断についてはいかがですか?

基本的に容認です。北海道日本ハムファイターズは企業名が入っていますが、十分に地元に根付いています。クラブチームがチームネーミングライツを展開することも可能です。

――シーズンの時期も変えるお考えですね?

今は9月スタートでリーグ戦をやっています。だけど世界選手権が2年に1回入るし、国体や日本選手権が重なります。だから世界選手権や国内の大会が終わったあと、冬にシーズンをスタートする“冬夏制”に移そうと考えています。
企業チームは3月決算なので、シーズンを年度内に終わらせたがるという“都市伝説”も聞いていました。でも何チームかに聞いてみたら、企業の方は誰もそんなことにこだわっていなかったですね。

――“稼ぐ機能”はリーグが受け持ちますが、様々な機能をチームとどう切り分けますか?

チーム側の組織図を見ながら考えたんですけど、選手編成、チームの運営、スコアラーと査定、コンディショニング、行政折衝、ユース、管理系といったところはチームに残します。他はリーグ側です。チームとどう分離そして連携するかは、まだ今後の整理が必要ですね。

――選手の給与を決めるのはチーム側ですね。

チームです。

――自前で稼ぐ機能をチーム側が持たない前提ですが、例えばジークスター東京のようにプロ志向が強く、先行して取り組みを進めてきたチームもあります。

ジークスターとは個別で相談します。チームに業務委託で出すかも知れません。権利上はすべてリーグにありますが、ルールに則って渡す場合もあり得ます。ジークスターは今すごく一生懸命やっていますから、そこは柔軟にやっていければと思っています。

――チームへの分配は平等に行うのか、結果や集客などに応じて差をつける傾斜配分にするのか、どうお考えですか?

激しい傾斜配分にはしないつもりです。なだらかな傾斜ですね。そうしないと戦力均等になっていきません。

――試合運営には多くの人手が必要で、JリーグやBリーグのようなプロも地元の協会やボランティアに支えられています。ハンドボールがプロになっても、それは同様だと思います。

そこは、どうスキームを作るかですね。リーグが雇用した人を派遣してコントロールしてもいいし、チームに委託するやり方があるかもしれません。もしくはリーグとチームの運営に興味を持つパートナーさんがいらっしゃるなら、パートナーさんと一緒に座組を組むパターンもあり得ます。そこは今後のテーマです。権利、意思決定権がどこにあるかが大事で、具体的な運営にどう落とし込むかはその次の判断です。

――他にも演出は地域性を出した方が魅力的になるはずです。リーグが権利、大きな世界観はコントロールするけれど、バランスを見つつそれぞれの独自性も活かす発想ですね?

チームの今までの独自性はリスペクトしつつやっていくのが大前提です。どこに行ってもまったく同じ世界観でやるのは一番気持ち悪いですよね。ご指摘の通りチームの色をリーグが黒船でやってきて消すんじゃないか?と思われがちなんですけど、そんなつもりはありません。コントロールする権利、リスクはこちらが持つということです。チームの要望も、もちろん聞きます。どうやったらチーム、地域の色が出せるかは、個別の相談でやればいいと思います。

――最後にハンドボールファンの方へのメッセージをお願いします。

難しいことを色々述べていますが、やりたいことはシンプルで、とにかくいつの日か1万人、2万人のファンの皆様がアリーナで熱狂している中で、選手たちにプレーさせてあげたい、その一心です。今のJHLは子供たちにとって、「憧れの場所」になっているかというとそうなっていません。少年少女がワクワクするような「憧れの場所」を創っていきたいです。

それを瞬間風速的な人気や一時的な資金投入で作っても全く意味がなく、いつまでも安定して輝き続けるようにしなくてはなりません。
そういった場所を創り出すために、今までの延長線上のやり方や改善レベルでやっても全く意味がなく、今回のように根本治療的手法を取らせて頂きました。

参入基準も決してチームや選手たちを困惑させたいのでなく、次のステージへ行くための必要なステップだと信じています。
本当に新しい世界が作れるか?リスクはないか?という議論になりがちですが、私からすると「今変わらないでいつ変わるのか?」という想いと「挑戦しない限り何も始まらない」という答えしかありません。勇敢な者たちだけが新しい世界を築けると思っています。
これから、チーム、選手、ファン、自治体、スポンサー、メディア等たくさんのステークホルダーの皆様と共に、勇気をもって歩み出していければと思っています。
世界最高峰リーグに向け共に大きな1歩を踏み出しましょう。
(インタビュー・構成:大島和人/インタビュー撮影:栃久保誠)